遠航空用高圧圧縮機内部で発生する不安定現象の解明

過給機やエンジンの構成要素である遠心圧縮機は,その主たる産業用用途において,
超小型から大型,低圧から高圧,低回転から高回転に至るまで,幅広い条件で運転されています。
特に,遠心圧縮機は小型化・高効率化の観点から羽根付ディフューザが多用されています。
しかし,羽根付ディフューザを採用することにより高い圧力上昇が得られる反面,右上がり不安定
領域が拡大し,部分流量運転時に旋回失速に代表される不安定現象が生じるという問題が生じます。
そこで従来から,失速に対する設計指針・速やかに失速から離脱する技術の開発のため,
旋回失速の発生メカニズムおよび非定常的な渦構造の解明が進められてきています。
しかし,旋回失速の発生構造や成長過程は,圧縮機の幾何形状や運転条件などにより 大きく異なり,現在までに普遍的な解釈は得られていません。 そのため,現在においても圧縮機に発生する旋回失速の普遍的な発生メカニズムを解明することは必要不可欠です。

本研究で対象とするのは,通路ディフューザの1種であるパイプディフューザであり,断面が円形または円形から長方形へ変形するパイプ状の管路を 羽根車の周囲へ配列したものです.パイプディフューザは異形管を長方形の部分で曲げることにより,外向き旋回流れを 軸方向に流出するようにしたもので,後方に環状に配置された燃焼器を持つジェットエンジン用に適しています。 しかし,パイプディフューザはその形状の複雑さから実機試験や解析が難しく,研究報告は非常に少ないです。 特に,パイプディフューザ部で発生する失速の初生調査は試験・解析ともに全く行われておらず,通路ディフューザと異なりだ円状の前縁や流路が 円形であるために,失速のメカニズムも従来通路ディフューザで調査されているものと大きく異なる可能性が挙げられています。

そこで,本研究では航空用エンジンの構成部品である高圧圧縮機のパイプディフューザを有する遷音速遠心圧縮機を対象に, 数値解析を行っています。特に,パイプディフューザ部での基本的な内部流れを把握し,パイプディフューザ部で発生する 失速セルの形成メカニズムを明らかにすることを目的としています。


HF120エンジン:本田技術研究所HP(https://www.honda.co.jp/jet/)より

ディフューザパイプ部内部流れの数値計算結果

・主な研究発表
Atsushi Ogino,Ryo Nakayama,Eijiro Kitamura,Nobumichi Fujisawa,Satoshi Aoyama,Yutaka Ohta,"Diffuser Stall Inception in a High-Pressure Ratio Centrifugal Compressor With Fishtail Pipe Diffuser",ASME 2023 Turbo Expo,GT2023-100835,Boston,USA,June 26-30,2023

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